近江牛を擁する滋賀県と飛騨牛を擁する岐阜県は、地理的に隣接しています。
近江牛も飛騨牛も格の高いブランド和牛ですが、三大和牛の一つにも数えられる近江牛に対し、飛騨牛は全国的に有名というほどではないかもしれません。
この記事では、近江牛と飛騨牛の違いについて詳しく説明していきます。
なお、松坂牛と神戸牛については、「松阪牛 神戸牛 どっちが高い?それぞれの定義と特徴とは?」の記事を、山形牛と米沢牛については、「山形牛 米沢牛 どっちが高い?それぞれの定義と特徴とは?」の記事を参照してください。
この記事を読むと、以下のことについて理解できます
- 近江牛と飛騨牛の歴史的背景
- 近江牛と飛騨牛の品質基準の違い
- 近江牛と飛騨牛の味の特徴
- 近江牛と飛騨牛のブランド戦略の違い
近江牛 飛騨牛 違い:近江牛について
近江牛も飛騨牛も、ルーツは但馬牛ですが、ブランドとしては近江牛の方が価値が上です。
近江牛を語る上でしばしば言われる、その歴史の長さや認証近江牛との違いなど、以下説明いたします。
近江牛 歴史
三大和牛と言えば、「松坂牛」「神戸牛(神戸ビーフ)」の2つは確定で、もう一つの椅子を近江牛と米沢牛で争うという位置づけです。
つまり三大和牛とも四大和牛とも言われる近江牛ですが、松坂牛・神戸牛より格下という印象があります。
しかし、歴史の長さで言えば近江牛が圧倒的で、400年以上の歴史があります。(松坂牛は100年、神戸牛は130年程度)
江戸時代に彦根藩にて味噌漬けにされ、反本丸(へんぽんがん)という養生薬として商品化されていくことになります。
とはいえ、この時代はまだ役牛としての役割が通常で、役牛として使えなくなった牛を彦根藩が養生薬としていただけであり、このころは近江牛ではなく彦根牛と呼ばれていました。
本格的に食肉として流通し始めたのは、明治維新の直前、横浜に外国人が居留するようになったのがきっかけでした。
彼らが牛肉を好んで食べることを知った近江商人が取引を始め、やがて開通した東海道線によって大量出荷が可能となりました。
その約100年後の1991年、牛肉輸入自由化により安いアメリカ産の牛肉が流通するようになりました。
それらに対抗、差別化をするため、高級路線に舵を切り、当初はホルスタイン牛だった牛の肥育を黒毛和牛に切り替え、近江牛を高級和牛としてブランド化する戦略がとられることとなりました。
このように、近江牛は歴史は長いものの高級和牛としてブランド化されてからの歴史は決して長くはなく、定義が確立されたのは2005年で、「近江牛」が商標登録されたのは2007年です。
近江牛 読み方
近江牛は「おうみうし」とも「おうみぎゅう」とも呼ばれることがあります。
基本的には、生きている間は「おうみうし」で、牛肉になった状態は「おうみぎゅう」です。
これは生きている牛を「ぎゅう」とは呼ばなかったり、牛肉のことを「うし」とは一般的に呼ばないことに由来します。
ただし、牛肉となった松坂牛は「まつさかうし」「まつさかぎゅう」とどちらの呼称も一般的であるため、呼び分けの説は俗説であるとも言われています。
近江牛 定義
近江牛は以前は但馬牛を素とする必要がありましたが、現在はその必要がなくなり、黒毛和牛であれば良いという基準になりました。
・黒毛和牛であること
・滋賀県内で最も長く飼育されていること(JAS法で滋賀県産と表示できること)
これらを満たせば近江牛を名乗れることから、松坂牛や神戸牛、また三大和牛を争う米沢牛と比べても定義は圧倒的に緩めです。
そのため、近江牛の中でも質の高い近江牛を「認証近江牛」として区別することがあります。
認証近江牛の定義は、上記の定義に加え、以下の条件が加わります。
・近江牛の中でもA4、B4以上の格付けのもの
・協議会の構成団体の会員が生産したもの
・滋賀食肉センターまたは東京都立芝浦と畜場でと畜・枝肉格付されたもの
実質的に三大和牛と呼ばれる品質を確約できるのは、認証近江牛であるということが言えます。
近江牛 特徴
前述のとおり、近江牛は定義が緩いため、品質が一定とは言えません。
高品質である認証近江牛に関して言えば、霜降り度合いが高く、オレイン酸が多く含まれるため、口溶けが良いのが特徴です。
近江牛 飛騨牛 違い:飛騨牛について
近江牛と同じく但馬牛を祖とする飛騨牛ですが、その歴史や定義、似て非なる「飛騨和牛」との違いなど、以下説明いたします。
飛騨牛 歴史
多くの他のブランド牛がそうであるように、岐阜県では役牛として多くの牛が飼育されていました。
しかし、昭和30年代になると農業の機械化が進んだため、役牛から肉用牛への転換が始まりました。
50年代になると岐阜県内にそれぞれの地域名のついたブランド牛が飼育されていましたが、それらを総称して「岐阜牛」と呼ばれるようになりました。
そして、後に「飛騨牛の父」と呼ばれることになる「安福号」が兵庫県から昭和56年に導入され、岐阜牛の評判は高まります。
そして昭和63年、飛騨牛銘柄推進協議会が設立され、岐阜牛の名称も現在の「飛騨牛」へと変更されることになります。
飛騨牛 読み方
飛騨牛は、「ひだうし」とも「ひだぎゅう」とも読めますが、生きている間は「ひだうし」、牛肉になった状態を「ひだぎゅう」と呼ぶのが一般的です。
これは前述の近江牛の場合も同様ですが、「うし」と「ぎゅう」の呼び分けは通説であるとも言われています。
飛騨牛 定義
飛騨牛銘柄推進協議会により、飛騨牛は以下のように定義されています。
・肥育期間が最も長い場所が岐阜県であること
・飛騨牛銘柄推進協議会登録農家制度にて認定、登録された生産者であること
・14ヶ月以上肥育された黒毛和牛の肉牛であること
・歩留等級(1頭の牛から食肉にできる割合)がAかBである(基準はA〜C)
・肉質等級が3以上である(基準は1〜5)
注意したいのは「飛騨和牛」という銘柄です。
これは歩留等級か肉質等級が飛騨牛の基準に達しなかった場合に呼ばれます。
つまり、歩留等級はCであれば飛騨牛でなく飛騨和牛、歩留等級がAかBでも肉質等級が2以下であれば飛騨和牛となります。
飛騨牛 特徴
肉質はきめ細やかでやわらかく、美しい霜降りと口のなかでとろける芳醇な香りと味わいが特徴だと、飛騨牛銘柄推進協議会ではその魅力を伝えています。
しかし、三大和牛と比べるとその定義は緩く、肉質等級が3でも認められるため、5等級の飛騨牛と3等級の飛騨牛では味わいも当然異なります。
そのため、飛騨牛を選ぶ場合は等級まで確認するのがおすすめです。
なお、前述したとおり飛騨和牛と記載している場合は肉質等級が劣る場合は多いため、注意が必要です。
近江牛 飛騨牛 違い:まとめ
この記事のまとめです。
- 近江牛と飛騨牛は共にブランド和牛
- 近江牛は三大和牛の一つに数えられる
- 飛騨牛は全国的には近江牛ほど有名ではない
- 両者のルーツは但馬牛
- 近江牛は400年以上の歴史を持つ
- 近江牛は明治維新の直前に食肉として流通し始めた
- 近江牛のブランド化は牛肉輸入自由化後
- 飛騨牛の歴史は昭和30年代に農業機械化で始まる
- 飛騨牛は昭和63年に銘柄として定義された
- 近江牛は定義が緩く、品質が一定でない
- 飛騨牛は肉質がきめ細やかでやわらかい
- 飛騨牛は三大和牛と比べて定義が緩い
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